Suggerless girl

「土方さん、こっち向いてくだせェ」

「なん、」
「ただし向いたら斬りやすぜ」
「向いて欲しいのか欲しくねェのかどっちだァァァ!!!」

振り向かれ様頭をはたかれ、たいして痛くもなかったけれど口を尖らせた。
「痛ぇなァ」
「お前が悪い」

あ、もう前向いてやがる。

おもしろくない思いで、これみよがしにため息をついた。前を歩く真っ黒い頭が毒々しいくらい青い空に映えている。絵みたいだ。こっち側から手を伸ばしても、絶対に届かない。


「土方さん、こっち」
「向かねぇぞ」
「つまんねーな土方死ねコノヤロー」

自分でも埒のあかない事をしている自覚はある。たしかにある、のにやめられないからたちが悪い。


肩が広いなぁと思った。広いくせに近藤さんより薄くて、それでも俺より全然厚い。あの肩に何度担ぎ上げられただろう。

ずっと昔、この人の肩から見る空が好きだった。そんな事に気付いた時にはもう誰にもおぶわれないくらい俺は成長していて、年を追う毎追うように高くなる背も、あの時と同じ景色を見るにはまだ少し、足りない。


「…ねぇ、じゃあ土方さん」
あんたと同じ背丈になったらあの時の空が見れるかな。欲を言えばその時隣にはあんたがいてほしいんだけど、やっぱりそれはわがままでしかないのかな。

「こっち向かなくていいから好きって言ってくだせぇよ」

ぴたり、と足が止まった。微かにも動かない背中が正直すぎて、泣きたいんだか笑いたいんだかわからない。空気を彩る草の匂いがむっと強くなった気がする。やっぱり柄でも無い事は思うもんでも言うもんでも無い。

「…うそです、嘘」
冗談でさァ、そう口を開いた時だった。

真っ黒い背中がくるりと振り向いた。射るように鋭い両目が揺れるように瞬く。

「…何であんたがそんな顔してんでィ」
「……どんなだよ」
「どんなだよって、土方さん」
泣きそう、だなんて言えるもんか。泣きたいのはこっちなのになんであんたが泣きそうなんだ。いつもみたいにあしらえばいい、馬鹿言うなって鼻で笑ってくれれば俺はいつもの俺でいられるから。

情けなく口を半開きにしたままの俺に、土方さんは苦しそうに声を搾り出した。あんた本当に、なんて顔してんだ。

「お前が、いつもそんなんだから、俺は、」
「…え?」


「ちょ、土方さん!」
言葉の続きを抱えたまま再び前を向いてしまった土方さんに、呆気に取られてる場合じゃないと慌てて追い縋る。
「続き言ってくだせぇよ」
「続きなんかねぇ」
「…じゃあ手つないでいいですかィ」
「何がじゃあ、だ!ぜってー嫌だ手を掴むな指絡ませんな!!!」

暑くて、暑くて、頭がどうにかなるんじゃないかってくらい熱い。日の光が一層色を帯びてきたのは昼が近づいている証拠だ。今日もやっぱり暑くなる。

「…あちぃな」
「…暑いんですかィ」
「……暑い」

そっぽを向く土方さんの白い頬は朱を梳いたように赤い。でも赤いですぜとは言えなかった。
だってきっと、俺だって言えないくらい赤い。

「…帰りやしょう」
一秒でも早く帰りたかった。部屋に戻って二人で休んで、それから心地良く冷えた畳の上でもう一度言葉を紡がせてくれと、全身が欲している。



赤いのを気温のせいなんかにしてやるもんか。はやる気持ちを抑え、黒髪に隠れた耳たぶを振り仰いで挑むように笑ってみせた。


目の端に映った空は、幼い時見た空と同じ色をしていた。


笑いかけて 誘い出して 君の心は Sugarless GiRL